工場や工事現場で働く人が熱中症で死亡した場合、労働基準監督署が労働安全衛生法違反の疑いで捜査し、事業者(会社や代表者、現場責任者)を書類送検することがあります。
ここで押さえておきたいのが、熱中症をめぐる事業者の責任は一つではない、という点です。混同されがちですが、次の3つは性質がまったく異なります。
つまり、一件の熱中症死亡で、事業者は労災・民事・刑事という三方向の責任を同時に負う可能性があります。書類送検はその中でも「事業者が罪に問われる」もっとも重い局面です。
熱中症による書類送検は、決して珍しいものではありません。近年報じられた事例を見ると、いずれも「やるべき備えをしていなかった」ことが問われています。
2024年7月、沖縄県今帰仁村の工事現場で、作業に従事していた人が熱中症により死亡する労働災害が発生しました。名護労働基準監督署は、建設業を営む本部町の個人事業主(70代)を、労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しています。
送検の理由は、作業員に与えるための塩分を工事現場に備えていなかったとされる点です。報道によれば、県内では初の熱中症をめぐる送検事例とされています。
ここがポイント:特別に危険な作業をさせていたわけではなく、「塩を備えていなかった」という法令上の備えの不足が問われました。規模の小さな事業者でも例外ではありません。
富山県では、作業中の40代男性が熱中症で死亡した事案で、魚津労働基準監督署が労働安全衛生法違反の疑いで会社(法人)と管理監督者である課長を書類送検しました。こちらも、労働者に与えるための「塩」を備えていなかったことが問われています。
ここがポイント:送検の対象は会社だけではありません。現場を管理する立場の個人(課長など)も同時に送検されることがあります。「会社の問題」で済ませられないのが刑事責任の重さです。
令和2年(2020年)8月、気温が30度を超えるなか、交通安全誘導の警備を行っていた労働者が熱中症を原因として死亡しました。労働基準監督署は事業者を労働安全衛生法違反の疑いで捜査し、神戸地方検察庁に書類送検しています。
問われたのは、多量の発汗を伴う作業場でありながら、労働者に与えるための塩および飲料水を備えていなかったことです。これは労働安全衛生規則第617条に定められた事業者の義務にあたります。
ここがポイント:屋外・移動を伴う作業でも、「発汗を伴う作業場」として塩・飲料水の備え付けが求められます。工場内はもちろん、構内の屋外作業や付随作業でも同じ考え方が当てはまります。
これらの事例に共通するのは、いずれも「塩・飲料水の備え付け」という基本的な義務を怠ったことが送検の決め手になっている点です。裏を返せば、法令が求める最低限の備えは、事業者を刑事責任から守る最初の防波堤でもあります。
熱中症で事業者が送検される背景には、労働安全衛生法とその規則で定められた明確な義務があります。
労働安全衛生法第22条は、事業者に対し、高温など健康障害を防止するために必要な措置を講じる義務を定めています。これを具体化した規定の一つが労働安全衛生規則第617条で、次のように定めています。
事業者は、多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料水を備えなければならない。
前述の送検事例は、いずれもこの「塩及び飲料水を備える義務」に違反したと判断されたものです。ごく基本的な備えに見えますが、これを怠れば送検の根拠となります。
2025年(令和7年)6月1日から、職場の熱中症対策が新たに義務化されました。労働安全衛生規則に第612条の2が新設され、対象となる作業を行う事業者に、次の措置が求められます。
対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業です。多くの工場・現場の夏場の作業がこれに該当します。
これまでは「塩・飲料水の備え付け」など個別の規定が中心でしたが、今後は熱中症を早期に発見し、重篤化させない仕組みそのものの整備が事業者に義務づけられました。仕組みを整えていなければ、それ自体が違反として問われることになります。
労働安全衛生法第22条に基づくこれらの義務に違反した場合、労働安全衛生法第119条により、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、法人に対しても同法第122条(両罰規定)により50万円以下の罰金が科されることがあります。
罰金額そのものは大きくないと感じるかもしれませんが、送検・刑事責任の追及は、企業の信用や採用、取引に大きな影響を及ぼします。「知らなかった」では済まされないのが現状です。
送検事例と法令から見えてくるのは、「基本的な備えを、確実に、記録に残る形で実施しているか」が問われるということです。工場の管理者として、次の3段階で対策を見直しましょう。
送検事例の多くはこの「最低限」を欠いていました。まずここを確実に固めることが、事業者を守る土台になります。
暑さのリスクは体感ではなく数値で管理します。WBGT(暑さ指数)を測定し、基準値を超える場合は作業時間の短縮や休憩の追加、作業時間帯の変更などで負荷を下げましょう。WBGTの考え方は「WBGTとは?」もあわせてご確認ください。
塩・飲料水の備えや水分補給は法令上の最低限ですが、それだけでは深部体温の上昇を止めきれず、重篤化を防げないことがあります。2025年の法改正でも「症状の悪化を防止するための措置」が明確に求められるようになりました。
そこで有効なのが、作業者の体そのものを冷やす身体冷却システムの導入です。株式会社鎌倉製作所のCOOLEX(クーレックス)は、冷水を循環させて身体を効率的に冷やす仕組みで、水分補給や休憩だけでは下げきれない体温上昇を抑え、重篤化リスクの低減に役立ちます。法令上の備えと組み合わせることで、「発症させない・悪化させない」対策をより確実なものにできます。
熱中症による書類送検は、大企業や特殊な現場だけの話ではありません。実際の事例では、「塩を備えていなかった」という一点で、個人事業主や現場の課長までもが送検されています。2025年6月の義務化により、対策を整えていない事業者が問われるリスクはさらに高まりました。
労災・民事賠償・刑事責任という三方向のリスクから会社と従業員を守るために、まずは法令上の備えを確実に満たし、そのうえで体を根本から冷やす設備で重篤化を防ぐ二段構えが、これからの工場の熱中症対策の基本になります。
「大空間であっても個人を十分に冷却できる」という熱中症対策の新たなソリューションとして注目を集めているのがチラー水冷式身体冷却システム「COOLEX」。7~20℃の冷水をホース通して専用ウェア内に循環させ、酷暑現場であっても防護服を着ていても作業者個人をしっかり冷却します。同時に複数人を冷却できるシリーズ「COOLEX Multi」もラインナップ。当調査チームはこの「COOLEX」に注目し、商品の詳細や実際の導入事例について取材してみました。