日本の夏が本格化すると、気温や湿度が一気に上がり、熱中症リスクも高まります。外出や運動の計画を立てる前に、いつ・どのタイミングで注意すべきかを正しく理解しておくことが大切です。本記事では、季節や時間帯ごとの発生傾向から予防行動のタイミング、万一の緊急対応まで詳細に解説します。
まずは、熱中症のリスクが高まる時期と時間帯について見ていきましょう。
全国的に熱中症リスクは5月頃から徐々に高まり始めます。日本気象協会の予測によると、2025年の5月は関東から沖縄を中心に平年並みか高い傾向が見られ、6月・7月には広範囲で「警戒」から「厳重警戒」のランクに入る日が多くなる見込みです。
とくに梅雨明け後の7月中旬には猛暑日が増え、一日の最高気温が35℃を超える日が連続しやすいため、極めて注意が必要です。気象庁の気温上昇に伴い、熱中症による救急搬送も増加傾向にあります。
また、梅雨明け前後は「身体が暑さに慣れていない」状態で急激な高温多湿にさらされるため、特にリスクが高まります。実際に神奈川県川崎市のデータでは、梅雨明け直前の1週間に比べ、梅雨明け直後の1週間で救急搬送者数が約6倍に急増したことが報告されています。
身体が暑さへの順化(暑熱順化)を完了していない段階での外出は、想像以上に危険ですので、早めの対策が求められます。
厚生労働省の調査によると、2020年以降の熱中症による死傷者数は午後15時台に最も多く、次いで午前11時台がピークであることが分かりました。これは昼前後から気温と湿度が急上昇するためで、特に11時から15時にかけては日差しも強く、屋外での活動が危険な状況となりやすい時間帯です。
川崎市のデータでも同様の傾向が確認されており、昼食後の外出や午後の活動計画には十分な注意と水分補給、休憩のタイミングを織り込む必要があります。
次に、身体が暑さに慣れるまでの期間と具体的な予防行動を確認します。
暑熱順化とは、暑い環境に身体機能を適応させるプロセスで、汗のかき始めや放熱効率が向上し、体温上昇が抑制されるようになります。個人差はあるものの、多くの場合、数日から2週間程度の期間が必要とされています。この期間を境に、同じ環境下でも身体が受ける熱ストレスが軽減されることから、順化が不十分なうちの猛暑日は特に危険です。
環境省も暑熱順化の重要性を指摘しており、梅雨時など比較的涼しい時期から意図的に汗をかく運動や半身浴などを取り入れることで、真夏本番に備えるよう呼び掛けています。
日常的な暑熱順化の一例として、通勤・通学時に一駅分歩いたり、階段を使ったりする軽い運動が効果的です。
また、自宅ではシャワーだけでなく、湯船に半身浴することで心拍数を上げて汗をかく練習にもなります。これらを無理のない範囲で毎日継続することで、発汗機能が高まり、体温調節能力が向上するでしょう。
日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子医師も、軽い運動や半身浴などで積極的に汗をかくことが暑熱順化の鍵であるとアドバイスしています。
続いては、熱中症予防に欠かせない水分補給のポイントをご紹介します。
人間の体の約60%は水分で構成されており、2%の水分が失われると強い渇きを感じ、6%を失うと脱水症状や頭痛などが現れやすくなります。
そのため厚生労働省を含む関係省庁では、1日あたり1.5L程度の水分補給が必要とし、とくに就寝前後や入浴前後にコップ一杯(約200ml)ずつ飲むことを推奨しています。
消防庁の啓発メッセージでも「喉の渇きを感じる前に、こまめな水分補給を行いましょう」と強く呼びかけており、定期的に意識して水分補給のタイミングを作ることが重要です。
運動や激しい作業時には、発汗による水分と電解質の損失が急速に進むため、一度に大量に飲むのではなく、1回あたりコップ1杯程度の量を、5〜15℃程度の冷たい飲料でこまめに補給することが望ましいとされています。温度が5〜15℃程度であることで、胃腸への負担を抑えつつ体温低下も図れます。
さらに、大量の汗をかいた場合はスポーツドリンクに含まれるナトリウムやブドウ糖の補給により、脱水や熱けいれんを予防できます。
また、塩分やミネラルを補う電解質補給のタイミングも大切です。
運動や屋外作業中は、真水だけでの補給ではナトリウム濃度の低下を招き、自発的脱水症と呼ばれる状態になる恐れがあります。そのため、発汗量が増えた段階で速やかにスポーツドリンクや経口補水液を飲むことが推奨されています。
特に強い筋けいれんが起きた場合は、濃い目の食塩水(0.9%生理食塩水)を用いることもガイドラインで示されています。
自宅で手軽に作れる自家製経口補水液の例としては、ミネラルが豊富な水1Lに塩1〜2gを加える方法があります。この濃度は塩分0.1〜0.2%程度で、経口補水液の標準的な濃度に近づけることができます。
運動や屋外作業を始める前に用意し、発汗が始まったらこまめに少量ずつ飲むことで、塩分と水分を同時に効率よく補給できます。
加えて、適切な休憩と体の冷却方法を押さえておきましょう。
屋外での作業やスポーツ時には、こまめな休憩を挟むことが重要です。環境省のマニュアルでは、WBGT値に応じた連続作業時間と休憩時間の目安が示されており、暑さが厳しい場合には短い作業と長めの休憩を繰り返すことが推奨されています。
日陰や風通しのよい場所、室内の涼しい環境で休息することで、熱ストレスを効果的に軽減できます。
休憩中や応急処置時には、冷却シートや濡れタオルを首の前面、腋窩部、鼠径部など大きな血管が皮膚表層に近い部位に当てることで、短時間で体温を下げることができます。これらは携行しやすく、屋外でもすぐに使用できるため、休憩のたびに積極的に活用しましょう。
さらに、暑さ指数(WBGT)を活用した行動計画の立て方を解説します。
環境省の熱中症予防情報サイトでは、全国各地の暑さ指数(WBGT)の予測値と実況推定値が確認でき、外出前の行動計画に役立ちます。
また、MHLWのウェブサイトでも環境省や気象庁が提供するWBGT予報へのリンクが掲載されており、スマホアプリのアラート機能を利用すれば、朝イチで当日の熱中症リスクを把握できます。
WBGT25℃以上が「警戒」、28℃以上が「厳重警戒」、31℃以上が「危険」に分類されており、28℃以上の日は炎天下を避け、31℃以上では原則外出を控えることが推奨されています。
さらに、環境省と気象庁が発表する「熱中症警戒アラート」を事前にチェックし、警戒レベルに応じた行動計画を立てることで、熱中症の発症リスクを大幅に低減できます。
最後に、万が一熱中症の症状が出た場合の緊急対応についてまとめます。
筋肉痛を伴うけいれんやめまい、倦怠感などの初期症状を感じたら、即座に作業や運動を中止し、涼しい場所へ移動します。衣服を緩めて扇風機やうちわで風を当て、濡れタオルや冷却シートで首や腋下、鼠径部を冷却しながらスポーツドリンクなどで水分・塩分を補給します。
直腸温が40℃以上、意識障害や虚脱、けいれんが見られる場合は重度の熱射病が疑われます。このような場合にはためらわず119番通報を行い、救急隊到着まで涼しい場所で冷却を継続します。衣服をさらに緩め、大量の氷水や冷却シートを用いた全身冷却を実施しつつ、速やかに医療機関へ搬送することが必要です。
工場管理者の皆様は、熱中症予防のタイミングを誤らないことが何より重要です。
業務計画を立てる際には、11時から15時の高リスク時間帯やWBGT値を参考に、適切に休憩時間を設定してください。従業員が喉の渇きを感じる前に水分・電解質を補給できるよう、休憩所や作業エリアに給水ポイントを複数設置し、冷却シートや濡れタオルを常備しておくことで、初期症状の発生を未然に防げます。
また、万が一の緊急時に備え、応急処置キットの準備や救急搬送ルートの確認も怠らず、従業員の健康と安全を守る体制を整えてください。日頃からのきめ細かな備えと適切なタイミングでの対応が、熱中症リスクを大幅に軽減します。
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