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【管理者向け】「工場 熱中症対策」ギモン解決BOOK ~Ne-Ketsu(ネッケツ)~ » 酷暑の職場は要注意!熱中症の基礎知識 » 熱中症による安全配慮義務違反の判例はある?

熱中症による安全配慮義務違反の判例はある?

工場での熱中症事故は、労災認定だけでは終わりません。企業が十分な対策を講じていなかった場合、安全配慮義務違反として民事上の賠償責任を負う可能性があります。

本記事では、実際の判例をもとに企業が問われたポイントを整理し、熱中症の予防策や従業員の体調不良時の初動対応、記録の残し方まで、現場で実践できる対策の第一歩をご紹介します。

熱中症による企業への判例事例

まずは、実際に企業が責任を問われた3つの判例を見ていきましょう。

症状を把握した後の放置が過失とされた例(大阪高裁)

事案の概要

造園現場で働いていた作業員が、勤務初日の午後2時ごろ、剪定枝をトラックに積み込む作業中に体調不良を訴えました。しかし、現場の指揮監督者は以下のような対応をとってしまいました。

  • 体調不良を訴えた作業員を現場で休ませながらも、作業を継続させた
  • 涼しい場所への移動や、水分補給、身体の冷却などを一切行わなかった
  • 状態確認も不十分なまま放置した
  • 午後3時47分、心肺停止に至る直前になってようやく救急車を要請した

作業員は同日夕方に死亡しました。

裁判所の判断

大阪高裁は、以下の点を問題視し、会社に民法715条の使用者責任を認めました。

  • 症状を認識した後の放置と救急要請の遅れが過失にあたる
  • 当時、造園業界では熱中症対策が共通認識となっていたにもかかわらず、監督者に対して「観察→冷却→飲水→医師の手当て」という行動手順を教育していなかった点が安全配慮義務違反にあたる

結果として、会社の賠償責任が認められました。

※参照元:一般社団法人 名北労働基準協会
【PDF】https://www.meihokurouki.or.jp/wp-content/uploads/202206_06.pdf

海外出張中の熱中症死で賠償責任が認められた例(福岡地裁)

事案の概要

船舶修理会社の30代社員が、2013年8月にサウジアラビアへ出張し、屋外で浚渫船の溶接補修作業に従事していました。作業環境と会社の対応には、以下のような問題点がありました。

  • 夕食時に食欲不振の兆候が見られたが、翌日の作業開始前や休憩時、体調や食事摂取状況を十分に確認しなかった
  • 昼食を取らないまま午後の作業も継続させた
  • 湿度確認やWBGT(暑さ指数)の把握といった客観的な暑熱環境の評価が不足していた
  • 作業中の巡視や声かけが不十分だった

男性は受診後も容体が悪化し、同月29日に死亡しました。

裁判所の判断

裁判所は以下の点を指摘し、会社に約4,868万円の賠償を命じました。

  • 当時すでに国の通達等で熱中症対策が繰り返し伝えられていた
  • 体調不良が疑われる段階で作業中止や受診につなげる運用が必要だった
  • 休憩室や飲料の準備など一定の措置があっても、それだけでは不十分

海外出張中であっても、企業の安全配慮義務は免除されません。

※参照元:毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240213/k00/00m/040/194000c

真夏の舗装作業で死亡し、熱中症の業務起因性が認められた例(東京地裁)

事案の概要

道路舗装工が真夏の現場で作業中に体調不良を訴え、けいれんを起こして心肺停止となり死亡した事例です。作業環境は以下のような状況でした。

  • アスファルトの温度は約145℃
  • 真夏でも長袖やヘルメットなどの保護具を着用
  • 多量の発汗を伴う過酷な環境

被災者には冠動脈狭窄(心臓の血管が細くなる病気)の基礎疾患がありました。このため労働基準監督署長は「業務に起因することが明らかな疾病」には当たらないと判断し、遺族補償等を不支給としました。

裁判所の判断

しかし東京地裁は、この判断を覆しました。

  • 暑熱な場所での業務中に熱中症を発症したと認定
  • 労働基準法施行規則別表第1の2「暑熱な場所における業務による熱中症」に該当すると判断
  • 業務起因性を肯定し、労働基準監督署長の不支給処分を取り消した

さらに裁判所は、「暑熱作業中の発症であれば、特段の反証がない限り業務起因性を認める」という枠組みも示しました。現場での熱中症対策の重要性が改めて浮き彫りになった形です。

※参照元:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08496.html

熱中症が労災と認められなかった事例

熱中症の発症が否定され、労災不支給が維持された例

一方で、労災として認められなかった事例もあります。

事案の概要

屋内プール新築工事のサウナ室で内装作業中に倒れ、救急搬送された作業員(特別加入者)が療養補償給付・休業補償給付を請求しました。

診断名は「左被殻出血(脳出血の一種)」。本人は、猛暑が続く中で通気の乏しい室内作業だったとして、熱中症が原因だと主張しました。

審査会の判断

しかし審査会は、以下の理由から熱中症の発症を否定しました。

  • 医療記録に熱中症を示す症状や所見が見当たらない
  • 作業環境として、出入口が開いており一定の通気があった
  • 窓ガラス未設置で日射がなく、かつ発熱体がない屋内環境だった
  • 発生当日の気象条件(気温30.1℃、風速3.2m/s、WBGT28.6)から、熱リスクが「明らかに高い」とまでは言えない

さらに、脳・心臓疾患の認定基準に照らしても、異常な出来事や過重な業務は認められませんでした。結果として、再審査請求は棄却され、不支給処分が維持されています。

※参照元:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/saiketu-youshi/dl/30rou335.pdf

なぜ「労災」だけでは済まないのか?安全配慮義務違反のリスク

労働契約法第5条「安全配慮義務」とは

労働契約法第5条は、使用者(企業)に対して、労働者の生命・身体などの安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮を行うことを義務付けています。具体的に、企業には熱中症対策として次のような対応が求められます。

  • 暑さの把握…WBGT(暑さ指数)などを用いた客観的な測定
  • 休憩・水分補給のルール化…明確な基準と運用の徹底
  • 体調不良時の対応手順…作業離脱や救急要請の判断基準を明確化
  • 教育の実施…現場で実際に動けるよう従業員への教育を徹底
  • 記録の保管…対策の実施状況を記録し、継続的に運用

これらを「整備しているだけ」では不十分で、現場で実際に機能するよう運用し、かつ記録を残すことまで求められる場合が少なくありません。

労災保険と民事損害賠償のダブルパンチ

ここで重要なのは、労災保険と民事賠償は別物であるということです。

労災保険とは

業務や通勤が原因のけが・病気に対して、以下のような給付を行う公的な保険制度です。

  • 療養補償給付(治療費)
  • 休業補償給付(休業中の補償)
  • 障害補償給付、遺族補償給付など

民事損害賠償とは

労災保険とは別に、会社に安全配慮義務違反があると判断された場合、民事上の損害賠償を請求される可能性があります。賠償の対象には以下が含まれます。

  • 慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)
  • 逸失利益(働けなくなったことによる将来の収入減)
  • その他の損害

企業が負うリスク

労災保険の給付があっても、全損害をカバーできるわけではありません。判例2のように、数千万円単位の賠償を命じられるケースもあります。また企業側には、損害賠償のほかにも以下のようなマイナスが生じます。

  • 弁護士対応の費用と時間
  • 社内調査の負荷
  • 企業イメージの低下
  • 従業員の士気への影響

つまり、労災で終わらず、会社に大きな負担が発生する点が、安全配慮義務違反の最大のリスクなのです。

判例から学ぶ「会社と従業員を守る」ための第一歩

熱中症対策は、単なるコンプライアンスではなく、会社と従業員の双方を守る投資です。

判例は、「対策を知っていたかどうか」ではなく、「実際に機能する体制を作っていたかどうか」を問うています。まずは現場の暑熱環境を把握し、優先順位をつけて着実に対策を進めること。これが会社と従業員の両方を守る第一歩となるでしょう。

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取材協力 株式会社鎌倉製作所 COOLEX事業部
独自のチラー水冷式身体冷却システム

「大空間であっても個人を十分に冷却できる」という熱中症対策の新たなソリューションとして注目を集めているのがチラー水冷式身体冷却システム「COOLEX」。7~20℃の冷水をホース通して専用ウェア内に循環させ、酷暑現場であっても防護服を着ていても作業者個人をしっかり冷却します。同時に複数人を冷却できるシリーズ「COOLEX Multi」もラインナップ。当調査チームはこの「COOLEX」に注目し、商品の詳細や実際の導入事例について取材してみました。


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