工場での熱中症事故は、労災認定だけでは終わりません。企業が十分な対策を講じていなかった場合、安全配慮義務違反として民事上の賠償責任を負う可能性があります。
本記事では、実際の判例をもとに企業が問われたポイントを整理し、熱中症の予防策や従業員の体調不良時の初動対応、記録の残し方まで、現場で実践できる対策の第一歩をご紹介します。
まずは、実際に企業が責任を問われた3つの判例を見ていきましょう。
造園現場で働いていた作業員が、勤務初日の午後2時ごろ、剪定枝をトラックに積み込む作業中に体調不良を訴えました。しかし、現場の指揮監督者は以下のような対応をとってしまいました。
作業員は同日夕方に死亡しました。
大阪高裁は、以下の点を問題視し、会社に民法715条の使用者責任を認めました。
結果として、会社の賠償責任が認められました。
※参照元:一般社団法人 名北労働基準協会
(【PDF】https://www.meihokurouki.or.jp/wp-content/uploads/202206_06.pdf)
船舶修理会社の30代社員が、2013年8月にサウジアラビアへ出張し、屋外で浚渫船の溶接補修作業に従事していました。作業環境と会社の対応には、以下のような問題点がありました。
男性は受診後も容体が悪化し、同月29日に死亡しました。
裁判所は以下の点を指摘し、会社に約4,868万円の賠償を命じました。
海外出張中であっても、企業の安全配慮義務は免除されません。
※参照元:毎日新聞
(https://mainichi.jp/articles/20240213/k00/00m/040/194000c)
道路舗装工が真夏の現場で作業中に体調不良を訴え、けいれんを起こして心肺停止となり死亡した事例です。作業環境は以下のような状況でした。
被災者には冠動脈狭窄(心臓の血管が細くなる病気)の基礎疾患がありました。このため労働基準監督署長は「業務に起因することが明らかな疾病」には当たらないと判断し、遺族補償等を不支給としました。
しかし東京地裁は、この判断を覆しました。
さらに裁判所は、「暑熱作業中の発症であれば、特段の反証がない限り業務起因性を認める」という枠組みも示しました。現場での熱中症対策の重要性が改めて浮き彫りになった形です。
※参照元:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会
(https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08496.html)
一方で、労災として認められなかった事例もあります。
屋内プール新築工事のサウナ室で内装作業中に倒れ、救急搬送された作業員(特別加入者)が療養補償給付・休業補償給付を請求しました。
診断名は「左被殻出血(脳出血の一種)」。本人は、猛暑が続く中で通気の乏しい室内作業だったとして、熱中症が原因だと主張しました。
しかし審査会は、以下の理由から熱中症の発症を否定しました。
さらに、脳・心臓疾患の認定基準に照らしても、異常な出来事や過重な業務は認められませんでした。結果として、再審査請求は棄却され、不支給処分が維持されています。
※参照元:厚生労働省
(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/saiketu-youshi/dl/30rou335.pdf)
労働契約法第5条は、使用者(企業)に対して、労働者の生命・身体などの安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮を行うことを義務付けています。具体的に、企業には熱中症対策として次のような対応が求められます。
これらを「整備しているだけ」では不十分で、現場で実際に機能するよう運用し、かつ記録を残すことまで求められる場合が少なくありません。
ここで重要なのは、労災保険と民事賠償は別物であるということです。
業務や通勤が原因のけが・病気に対して、以下のような給付を行う公的な保険制度です。
労災保険とは別に、会社に安全配慮義務違反があると判断された場合、民事上の損害賠償を請求される可能性があります。賠償の対象には以下が含まれます。
労災保険の給付があっても、全損害をカバーできるわけではありません。判例2のように、数千万円単位の賠償を命じられるケースもあります。また企業側には、損害賠償のほかにも以下のようなマイナスが生じます。
つまり、労災で終わらず、会社に大きな負担が発生する点が、安全配慮義務違反の最大のリスクなのです。
熱中症対策は、単なるコンプライアンスではなく、会社と従業員の双方を守る投資です。
判例は、「対策を知っていたかどうか」ではなく、「実際に機能する体制を作っていたかどうか」を問うています。まずは現場の暑熱環境を把握し、優先順位をつけて着実に対策を進めること。これが会社と従業員の両方を守る第一歩となるでしょう。
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